平安時代の貴族有数の「恋多き女」と言われ恋歌も多い和泉式部。
そんな和泉式部が生前に残した主な和歌を紹介。

あまりに実力が高いためか、他の歌人と比べて大量の和歌が
歴代の勅撰和歌集に収録されているためダイジェストです。

全体的には、やはり恋歌が多い一方で
娘を大事に思っていた事がよくわかる作品、自然を愛する人だった事がよくわかる作品も多い印象。



[現代誤訳参考文献]
各種古語辞典など
 
 

後拾遺和歌集収録作品

 

歌番号

内容
 
簡単な現代語訳など
(解釈の難しいものは訳していません)


013
春霞
たつやおそきと
山川の

岩間をくぐる
音聞ゆなり
 

春の霞が岩の岩の間に入り込む様子を描いた
自然現象の描写に関するうた。

025
ひきつれて
けふは子日の
松にまた

今千年(ちとせ)をぞ
野辺に出でつる
 
 


035
春日野は
雪のみつむと
見しかども
生いづるものは
若菜なりけり.
 
春日野は雪ばかりが積もっていると思いきや
そこからは既に若菜が生えていて
「摘む」ことが出貼る状態だった

*「積む」と「摘む」がかかった作品


048
秋までの命も知らず
春の野に
萩のふる枝(え)を
焼くときくかな

 
 

057
春はただ
我が宿にのみ
梅咲かば
かれにし人も
見にと来なまし
 
春の時期に我が家にだけ梅が咲くのだったら
私から遠ざかってしまった人(男)も
梅の花を見ようと我が家まできてくれただろうなぁ

100
都人
いかにととはば
見せもせむ
かの山桜
一枝もがな
 
都に戻る前に山桜の枝を一枝でも獲って
都の人達に見せたい

という気持ちを示したうた

148
風だにも
吹きはらはずは
庭桜
ちるとも春の
うちはみてまし
 
春の時期は庭の桜をできればずっと長く見てみたい、
という気持ちをうたった作品。

1000年前を生きた和泉式部も現代人同様、
春の桜が好きだった事が分かる。

150
岩つつじ
折りもてぞ見る
せこが着し

くれない染めの
色に似たれば
 
かつての愛しい男が着ていた紅染めの服と
岩つつじの花の色が似ている
と言う事に関連した恋歌

165
桜色に
そめし衣を
ぬぎかけて
山時鳥
けふよりぞ待つ

 
夏が来て春福から夏服への衣替えに関する作品

293
晴れずのみ
物ぞかなしき
秋霧は

心のうちに
立つにやあるらん
 
心の不安/晴れない心を表した作品

299
かぎりあらん
中ははかなく
なりぬとも
露けき萩の
上をだにとへ
 
恋ははかなくいつか終わりが来る
という事を嘆くようなうた

317
ありとても
たのむべきかは
世の中を

しらする物は
朝顔の花
 
朝顔の花は、この世の筋(正論)を知らせてくれるものだ
という考えが関連した作品

334
なにしかは
人も来て見ん
いとどしく

物思いまさる
秋の山里
 
 

390

さびしさに
煙をだにも
断たじとて

柴折りくぶる
冬の山里
 
 

414
こりつみて
真木の炭やく
気をぬるみ

大原山の
雪のむらぎえ
 
 

509
言問はば
ありのまにまに
都鳥(みやこどり)

都のことを
我に聞かせよ

 
都鳥よ、私が質問したら都の事をおしえてください

[注記]
都鳥という聞きなれない鳥は、
ゆりかもめの別称などとされる

539
たちのぼる
煙につけて
思うかな

いつまた我を
人のかく見ん
 
 

568

とどめおきて
誰をあわれと
思うらん

子はまさるらん
子はまさりけり
 
1025年に子を産んですぐ自身より先に亡くなった
和泉式部の娘・小式部内侍。
それにより、親を失った孫(和泉式部の孫)だけが残された中、
子供と別れなくてはならなくなった小式部は
どれほど無念だろうか、という気持ちをうたった作品

573
今はただ
そよその事と
思い出でて
忘るばかりの
憂きこともがな
 
1007年に亡くなった恋人、
敦道親王との別れの辛さにまつわる恋歌

611
おぼめくな
誰ともなくて
宵々に
夢に見えけん
我ぞその人
 
当時は誰かが猛烈に恋をすると
相手の夢にその人が出現すると信じられていた仲、
毎晩夢に私が出てきてもこわがらないでください

635
下消ゆる
雪まの草の
めづらしく
わが思う人に
逢い見てしがな
 
 

681

おきながら
明かしつねかな
共寝そぬ
かものうは毛の
霜ならなくに
 
来るはずの人(男)がやってこないまま朝を迎えた中で
虚しさをうたった作品

691
津の国の
こやとも人を
いふべきに
ひまこそなけれ
葦の八重葺き
 
 

711

今宵さえ
あらばかくこそ
思ほえめ

けふ暮れぬまの
命ともがな
 
こちらも、私(式部)を待たせたまま
なかなか私の元にやってこない人に対する憂いの恋歌


百人一首収録作品

763
あらざらむ
この世のほかの
思い出に
いまひとたびの
逢う事もがな

 
もうすぐ私はこの世からいなくなるかもしれませんが、
その前に一度あなたに会いたいです





 
 

新古今和歌集収録作品

 


370
秋くれば
常盤の山の
松風の

うつるばかりに
身にぞしみける
 
秋に季節に関する感受性の高まりに関連したうた

408
たのめたる
人のなけれど
秋の夜は
月見て寝べき
心ちこそせね
 
こちらも、約束を守る事なく
自身のもとに意中の人がきてくれない
という嘆きに関する歌

583
世の中に
猶もふるかな
しぐれつつ

雲間の月の
いでやと思へど
 
俗世を離れて出家しようか迷っている時期のうた

702

かぞえれば
年の残りも
なかりけり

老いぬるばかり
悲しきはなし
 
現代語に近くてわかりやすい作品。

今年も残すところわずかだが、
老いる事ほどかなしいものはない
 

816
恋ひわぶと
聞きにだに聞け
鐘の音に
うち忘らるる
時の間ぞなき
 
「恋」という語が入っているものの
こちらは恋歌ではなく、
若くして自身より先に亡くなった
愛しい娘(小式部)との別れの辛さが続いている時期のうた

1178
今朝はしも
嘆きもすらむ
いたづらに
春の夜ひと夜
夢をだに見て
 
春の夜に濃密な一晩を過ごした男に関するうた

1459
折る人の
それなるからに
あぢきなく
見し我が宿の
花の香ぞする
 
恋人・敦道親王と共に藤原公任宅まで
花見をしに行った時に詠んだうた。
 
 

金葉和歌集収録(一般的にはマイナーな和歌集)


556
鷺(さぎ)のゐる
松原いかに
騒ぐらん
白毛はうたて
里とよみけり
 
 

620
もろともに
苔の下には
朽ちずして
埋(うづ)もれぬ名を
見るぞ哀しき
 
娘(小式部)の死に関する歌。
一緒に亡くなる事なく自身だけが
生き残って熊った事を申し訳なく思うようなうた










 

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