2023年芥川賞ノミネート作品一覧/各作品あらすじ
第169回(2023年度上半期)
作品\作者 | 備考 |
石田夏穂 「我が手の太陽」 2023/7/13 単行本 144ページ |
「群像」5月号掲載 あらすじによると 「職人小説」 |
[受賞] 市川沙央 「ハンチバック」 2023/06/22 単行本96ページ kindle版あり オーディオブックあり |
文學界 5月号掲載 |
児玉雨子 「##NAME##(ネーム)」 2023/07/14 単行本160ページ kindle版あり |
文藝 夏季号掲載 |
千葉雅也 「エレクトリック」 2023/5/31 単行本 : 168ページ |
新潮 2月号掲載 ライバルの 三島賞候補作品。 |
乗代雄介 「それは誠」 kindle版あり 2023/6/29 単行本 184ページ |
文學界 6月号掲載 |
「我が手の太陽」あらすじ
鉄鋼を溶かす、太陽と同レベルの高温の火を扱う溶接作業は、どの工事現場でも花形的存在。
その中でも腕利きの伊東は自他ともに認める熟達したトップ溶接工だ。
鉄鋼を溶かす間、伊東は滅多に瞬きしない。息も最小限に殺す。
火が鉄板を貫通すると、その切り口が上下に破かれ初め、切断面から動脈血にも似た火花が、ただただ無尽蔵に散る。ーーそんな伊東が突然、スランプに陥った。
”お前が一番、火を舐めてるんだよ”
”お前は自分の仕事を馬鹿にされるのを嫌う。
お前自身が、誰より馬鹿にしているというのに”
“「人の上に立つ」ことにまるで関心がなく、嫌悪感すら抱いていた。
自分の手を実際に動かさないのなら、それは仕事ではなかった。”
いま文学界が最も注目する才能が放つ前代未聞の職人小説。
工事現場の花、腕利きの溶接工が陥った突然のスランプ。その峻烈なる生きざまを見よ!
「ハンチバック」あらすじ
井沢釈華の背骨は右肺を押しつぶす形で極度に湾曲し、歩道に靴底を引きずって歩くことをしなくなって、もうすぐ30年になる。 両親が終の棲家として遺したグループホームの、十畳ほどの部屋から釈華は、某有名私大の通信課程に通い、しがないコタツ記事を書いては収入の全額を寄付し、18禁TL小説をサイトに投稿し、零細アカウントで「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」とつぶやく。 ところがある日、グループホームのヘルパー・田中に、Twitterのアカウントを知られていることが発覚し——。
「NAME」あらすじ
光に照らされ君といたあの時間を、ひとは”闇”と呼ぶ――。かつてジュニアアイドルの活動をしていた雪那。少年漫画の夢小説にハマり、名前を空欄のまま読んでいる。
「エレクトリック」あらすじ
1995年、雷都・宇都宮。高2の達也は東京に憧れ、広告業の父はアンプの製作に奮闘する。
父の指示で黎明期のインターネットに初めて接続した達也は、ゲイのコミュニティを知り、おずおずと接触を試みる。
轟く雷、アンプを流れる電流、身体から世界、宇宙へとつながってゆくエレクトリック。新境地を拓く待望の最新作!
「それは誠」あらすじ
修学旅行で東京を訪れた高校生たちが、コースを外れた小さな冒険を試みる。
その一日の、なにげない会話や出来事から、生の輝きが浮かび上がり、えも言われぬ感動がこみ上げる名編。
第170回(2023年度下半期)
タイトル/作者 | 備考 |
迷彩色の男 安堂ホセ 2023/9/27 kindle版あり オーディオ版あり 単行本168ページ |
「文藝」掲載 |
Blue 川野 芽生 2024/1/17 kindle版あり 単行本144ページ |
トランスジェンダー関連作。 「すばる」掲載 |
[受賞] 東京都同情塔 九段理江 2024/1/17 kindle版あり 単行本144ページ |
「新潮」掲載 |
猿の戴冠式 小砂川チト 2024/1/19 kindle版あり 単行本144ページ |
「群像」掲載 |
アイスネルワイゼン 三木 三奈 2024/1/12 kindle版あり 単行本216ページ |
「文學界」掲載 |
「迷彩色の男」あらすじ
ブラックボックス化した小さな事件がトリガーとなり、混沌を増す日常、醸成される屈折した怒り。快楽、恐怖、差別、暴力。折り重なる感情と衝動が色鮮やかに疾走する圧巻のクライム・スリラー。文藝賞受賞第一作。
「Blue」あらすじ
割りあてられた「男」という性別から解放され、高校の演劇部で人魚姫役を演じきった。 そんな真砂 (まさご) が「女の子として生きようとすること」をやめざるをえなかったのは──。
『人魚姫』を翻案したオリジナル脚本『姫と人魚姫』を高校の文化祭で上演することになり、人魚姫を演じることになった真砂は、個性豊かな演劇部のメンバーと議論を交わし劇をつくりあげていく。しかし数年後、大学生になった当時の部員たちに再演の話が舞い込むも、真砂は「主演は他をあたって」と固辞してしまい……。
自分で選んだはずの生き方、しかし選択肢なんてなかった生き方。 社会規範によって揺さぶられる若きたましいを痛切に映しだす、いま最も読みたいトランスジェンダーの物語。
「東京都同情塔」あらすじ
ザハの国立競技場が完成し、寛容論が浸透したもう一つの日本で、新しい刑務所「シンパシータワートーキョー」が建てられることに。犯罪者に寛容になれない建築家・牧名沙羅は、仕事と信条の乖離に苦悩しながらパワフルに未来を追求する。ゆるふわな言葉と、実のない正義の関係を豊かなフロウで暴く、生成AI時代の預言の書。
「猿の戴冠式」あらすじ
いい子のかんむりは/ヒトにもらうものでなく/自分で/自分に/さずけるもの。
ある事件以降、引きこもっていたしふみはテレビ画面のなかに「おねえちゃん」を見つけ動植物園へ行くことになる。言葉を機械学習させられた過去のある類人猿ボノボ”シネノ”と邂逅し、魂をシンクロさせ交歓していく。 ――”わたしたちには、わたしたちだけに通じる最強のおまじないがある”。
”女がいますぐ剥ぎ取りたいと思っているものといえば、それは〈人間の女の皮〉にちがいなかった。女は人間の〈ふり〉をして、ガラスの向こう側にたっている”
”女とシネノは同じだった。シネノのほうはそのふるまいこそ完璧ではあったけれど、それでも猿の〈ふり〉をして、あるいは猿の〈姿をとって〉、こちら側にいる”
ねえ、なにもかもがいやなかんじなんでしょう。ちがう?
「アイスネルワイゼン」あらすじ
32歳のピアノ講師・田口琴音は、さいきん仕事も恋人との関係もうまく行っていない。そんな中、ひさびさに連絡をとった友人との再会から、事態は思わぬ方向へ転がっていくーー。静かな日常の中にひそむ「静かな崖っぷち」を描き、心ゆすぶる表題作。そして選考委員の絶賛を浴びた文學界新人賞受賞作「アキちゃん」を併録。 「すべての結果としてこの作品は、新人離れした堂々たる手腕を示すことになった」(川上未映子氏の選評より)
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